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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(オ)69号 判決 1949年6月04日

主文

原判決中被上告人の所有権を確認した部分(主文第二項)を破毀し右部分に関する被上告人の請求を棄却する。

爾余の部分に対する上告を棄却する。

訴訟の総費用はこれを十分しその九部を上告人の負担としその一部を被上告人の負担とする。

理由

上告代理人勅使河原直三郎の上告理由第一点及び第二点上告代理人富田順一の上告理由第一点について

しかし原判決挙示の証拠により昭和二〇年九月二五日上告人等が村田茂七から被上告会社の株式百株の譲渡を受け適法に取締役に選任されたことが認められる、そして右譲渡は当時上告人等に被上告会社の役員たる資格を与えるためのいわゆる資格株の譲渡であつて後日返還することを約したものであるからといつて、その譲渡を仮装であるということはできない、また株式の譲渡は意思表示だけでその効力を生ずるのであるから当時右譲渡について株券の交付、名義書換の手続が行われなかつたとしても上告人の取締役選任の効力には何等影響するところはない、また上告人が株券供託の規定に違反したかどうかの点は原審で問題になつていないのみならず、仮りに上告人が株券を被上告会社の監査役に供託しなかつたとしてもこれによつて取締役選任の効力がないとはいえないのであるから原判決には所論のような違法なく論旨はいずれも理由がない。

勅使河原上告代理人の上告理由第四点について

しかし被上告会社において新に追加した目的は木工品の製作及びこれに附帯する事業である、そして附帯事業というのは主たる目的事業に関連のある各種の事業をいうのであつて木工品の製作を主たる目的とする事業の附帯事業のうちにはその資材原料たる立木伐木等の買入をする事業をも包含するものと解するのが正当である、従つて論旨は理由がない。

同第五点第一一点及び第一二点、富田上告代理人の上告理由第二点について

しかし木材統制法により木工業者は農林大臣の割当証明によつて木工品を製作し得るに過ぎなかつたとしても右制限は木材の生産消費を規正したもので立木伐木等の買入自体を禁止したものではないから右制限があることから直に立木伐木等の買入が木工品製作の附帯事業の範囲にはいらないと論断することはできない、また木材業又は製材業が許可を要する事業であつて当時被上告会社がまだその許可を得ていなかつたとしてもそのために本件取引が附帯事業の範囲に属すると判断する妨げとならない、論旨はいずれも理由がない。

勅使河原上告代理人の上告理由第八点及び第九点、富田上告代理人の上告理由第三点について

原判決は本件介入権行使の結果本件取引によつて上告人に帰属した一切の権利義務は上告人と被上告会社との間において悉く被上告会社に移転したのであつて本件取引により上告人の取得した本件立木及び伐木は被上告会社の所有に帰したのであると判定し右立木及び伐木が被上告会社の所有であることの確認の請求を許容したのである、しかし商法第二六四条第二項によればいわゆる介入権の行使は取締役が同条第一項の規定に違反して自己のためになした取引を会社の為になしたものと看做することができるのである即ち介入権行使の効果は取締役はその取引によつて取得した金銭その他の物はこれを会社に引渡し、権利はこれを会社に移転することを要するのであつて取締役がその取引によつて取得した所有権その他の物権が介入権の行使により当然に会社に移転するいわゆる物権的効力を有するものではないと解するのが相当である、然らば原判決が本件介入権の行使により上告人の本件取引により取得した立木及び伐木の引渡を求むる請求を許容したことは正当であるが所有権確認の請求を許容した部分は失当であるからその部分に関する論旨は理由があり原判決は破毀を免れない、次に上告人が本件取引により取得した物件を現に占有中であることは原審において弁論の全趣旨から上告人において争わないものと認めて確定された事実であるから原審がその引渡の請求を容れたのは正当であつてこの点に関する論旨は採るを得ない。次に本件介入権の行使の効果として上告人は被上告会社に本件立木等を引渡す義務があるがまた被上告会社には上告人に対して本件立木等の価格に相当する補償をする義務があることは言うまでもないところである、そしてこの二の義務の間に同時履行の抗弁権があるか否やは一の問題であるが仮りにそれがあるとしても上告人は原審においてその抗弁権を行使しなかつたのである。従つて原審がその補償の点について審究しなかつたのは当然であつて毫も所論のような違法があるとはいえない、それ故右の点に関する論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

以上説明の理由により原判決中被上告人の所有権確認の請求を認容した部分を破毀した請求はこれを棄却すべく爾余の上告はその理由がないから民事訴訟法第四〇八条第一号、第三九六条、第三八四条第一項、第九六条、第九二条、第九五条第八九条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重)

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